山田昌弘著「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?~結婚・出産が回避される本当の原因~ 」2020年 (その1)

 なにかと話題の「日本の少子化」問題ですが、少子化対策を知る上での必読書として、下記の本を紹介します。
 山田昌弘著「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?~結婚・出産が回避される本当の原因~ 」(光文社新書) 2020年
https://www.amazon.co.jp/dp/4334044689

 この本の特徴は
(1)少子化の原因を愚直なまでに究明
 著者は「少子化」そのものにフォーカスします。これは「多くの若者が子供を持つことを望んでおり、その希望を実現できる社会が、若者の幸福と人権を保証するものだ」という信念に基づくものです。
 だから「少子化」が社会に及ぼす影響(例えば経済や道徳など)やそれらへの影響を緩和する対策(例えば移民政策とかロボット開発など)については、著者の目的とは関係が無いので全く触れません。実に清々しい態度です。

(2)望ましいが多大なコストを必要とする対策を提示
 上記(1)の裏返しですが、原因対策に特化して目的外の緩和対策はしないのですから、制度と意識の大変革が必要で、対策は長期にわたり累計コストは多大となるでしょう。一方成果は例えば20年後に顕在化するというような代物です。
 このような政策を国民は我慢するでしょうか。3年で担当が変わる官僚や4年で選挙がある政治家が、このような対策を主導するでしょうか。多くの国民は、若者の幸福や人権はどうでもよいから、少子化でも困らない社会を安上がりに作ってくれと言うかもしれません。

(3)このまま放置(対策なし)でも出生率が回復する可能性を指摘
 著者はこのような可能性を指摘しています。ただしディストピアとしての「階級社会」において成立する現象でです。こうなりたくないから(2)の「望ましい対策」が必要なのだと著者は主張します。ただこの対策放置コースが日本の現実的可能性として一番高いのではないかと思うのです、もちろんこんな社会に生きたくないのですが。

 なお、この場合国民の多数を占める下層階級に上昇志向はないので、上昇志向のある移民の導入が経済政策上必須でしょう。ただしこのような日本にこのような移民が来てくれるかはまた別問題ですが。

(4)判り易い文章と判り難い理路
 言葉は平易であり著者の言いたいことは良く判ります。しかし枝葉やエピソードが多く、同じことの繰り返しも多いため理路や起承転結が判然としません。そこで無味乾燥な要約を作ってみて初めて、著者がこの本全体として言いたかったことが理解できました(別記事を参照)。

(5)著者の思想的背景
 欧米的近代より東アジア的伝統への親近感、ポリティカルコレクトより身も蓋もない現実認識、エリート的都市民より物言わぬ地方民への愛着、このようなテーストつまり良質な保守思想を感じさせる本でした。